主のうしろ姿(クレネ人シモンの物語)
彼らがイエスをひいてゆく途中、シモンというクレネ人が郊外から出てきたのを捕えて十字架を負わせ、それをになってイエスのあとから行かせた。<ルカによる福音書23:26) 「今日は過ぎ越しの祭りか」、私はそう思いながらフラフラと家を出てきたのです。 実は、クレネから、やっとの思いでエルサレム近郊までやってきたばかりなのですが、ここでもなかなか仕事がないのですよ。「今日あたり何か良いことに出くわしたいものだ」と、私は半分ヤケになっていたのでしょう、何処をどう歩いたのかさえよく覚えていないのです。エルサレムの町のほうはなんだかえらく騒がしくて、お祭りにしてもちょっと、雰囲気が違うのです。しかし私は、人が多いほうが何か、仕事にありつけそうだし、いい話が転がっていそうなので、賑やかなほうへと歩いていったのです。 何の当てもない訳ですから、人ごみにまみれて人々に押し流されるままに町の中へと入っていったのですが、その時私の目に入っていたものと言えば、石畳の道路と人の足ばかりです。それしか見えていなかったのです。 と、その時です。私はいきなり腕をつかまれました。 ローマの兵隊です。「何をするのですか」「わたしは何も悪い事はしていませんよ!」。 必死に叫んだのですが、誰も聞いてくれません。それどころか、無理やりに、本当に無理やりにです。大きなズッシリと重い太い木の柱が私の肩に負わされたではありませんか。 一瞬膝がガクッとなりよろけそうになりました。なんとか倒れずにすみましたが、目を上げたときやっと事情が飲み込めました。なんと、私の前に居る十字架刑の罪人の代わりに,この重い十字架をゴルゴタの死刑場まで担いで行けということらしいのです。「とんでもないです」「どうしてわたしがこんな目に会わねばならないのですか」と、悔しいやら、情けないやらで、前に歩いていく罪人を睨みつけたのです。 ところが、前を歩いている、傷だらけで、頭から血を流して今にも倒れそうに歩いているこの罪人から、目に見えるところとは、まったく違う、愛と、命と、力が伝わってくるのです。「何だろう、何故だろう?」惹きつけられるままに、私は一歩、一歩、この人と共に歩いて行ったのです。涙が溢れました。どうしてでしょう。 気がつけばゴルゴタに着いていました。歩いていた時に耳にしたのですが、この人はイエスという名前らしいのです。そして、十字架の上のこのお方の死を見ていた時、「まことに、この人は神の子であった」という声を聞きました。私もそのとおりだと断言できます。 このあとわたしは家に帰り、今日あったことの一部始終を妻や子供たちに伝えたのです。「今日私は、私たちの救いを見たよ」と。 神はわたしたちの罪のために、罪を知らないかたを罪とされた。それは、わたしたちが、彼にあって神の義となるためなのである<コリント人への第二の手紙5:21>
by mitiru-takae
| 2014-02-05 15:15
| 満ちる
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